サルについて

「サルに似てる」

とか「サル顔」というのは、一般的にはあまりホメる文脈で使われることはない。織田信長が秀吉を「サル」と呼んだのも、後々は親愛の情を込めてのものだったかもしれないけれど、最初はまあ、侮蔑的な表現だったと考えて良いんじゃないかなと思う。「猿真似」ってのも、あまり肯定的に捉えられるもんじゃない

チャールズ・ダーウィンの進化論によれば、人間の祖先はサルだという話だし、実際、ヒトとチンパンジーのゲノムは3%くらいの違いしかない、という説もある。とすると、だいぶ近いじゃないか。

というわけで、ヒトとサルとは何がどう違うのか、ちょこっと調べてみたい。

■二足歩行の祖・「ルーシー」


ヒトとサルとの大きな違いと言えば、二足歩行するかしないか。サルも一応二足歩行ができないことはないけれど、どちらかと言えば四つ足で歩くことの方が多いし、人間のように二足でまっすぐ立つことはしない。

現在、我々の祖先が二足歩行を始めたと考えられるのは、500万年ほど前のことと言われている。二足歩行をしていたと見られるサル「ルーシー」の化石が、1974年にエチオピアで発掘されたという。

ちなみに、この「ルーシー」という名前はビートルズの楽曲『Lucy in the sky with diamond』から取られたらしい。なぜその曲だったのかはわからない。もし、その時に発掘チームが聞いていた曲だったとしたら、ひょっとすると「Michelle」やら「Moonlight」やら「与作」やらになっていた可能性もあるわけか。

それはともかく。このルーシーの体格や大きさは現在のチンパンジーとほぼ同等。脳のサイズも、現代人の基準から考えるとさほど大きいわけではなく、450CCほど。一体、何がルーシーを二足歩行に導いたのか。

それは、足の親指だという。手の親指のようだった足の親指が、徐々に内側に移動して太くなり、全体重の40%を足の親指で支えられるようになっていったのだという。それに伴って、二足歩行に伴うように体が変化していったと考えられている。つまり、ヒトとサルとの大きな違いを生んでいるのは「足の親指」と言い換えることもできる。そう考えると、足の親指ってすごい。

■早熟のサル、大器晩成型のヒト


さて、ルーシーの脳のサイズはヒトと比べるとかなり小さい。そこから、ヒトはどんどん脳を進化させていき、大きな容積を持つようになった。そのためか、ヒトはサルと比較すると圧倒的に成長が遅いことが認められている。

例えば、ニホンザルに代表されるマカク類は出生時、すでに成体の70%ほどの脳を持っている。チンパンジーも、生後一年ほどすると成体の7~8割まで脳が成長するらしい。ところがヒトは出産時に25%、3才でようやく70%、そして6才まででようやく、約95%まで到達するのだという。

ちなみに、身長が伸びるのも遅い。マカク類は7歳で身長が最も高い時期を迎える。チンパンジーも13歳くらいまでには成長が止まる。ところが人間は18歳くらいまで、あるいは20歳、25歳の朝飯前まで伸びるという説もある(説じゃないし)。要するに、ヒトは頭脳的にも身体的にもゆっくり成長するし、ある程度歳を取ってからも成長する生き物らしい。

体の構造も違っている。チンパンジーの体重は雄で約40~70kg、雌で30~50kg程度。一般的には、ヒトよりやや小さい。しかし、ヒトを上回るほどの身体能力を持っている。何しろ、10メートル以上の木を毎日何十回と上り下りし、片手で木の枝にぶら下がりながら木から木へと飛び移りながら生活をしているのである。

言ってみれば、毎日がアスレチックである。私なぞ、1日もたない自信がある。ちなみに、サルの一種で草原に暮らすヒヒやパタスザルなどの中には、時速50キロで走るものもいるらしい。時速50キロ。原付並みのスピードのサル。想像すると、ちょっとコワい。

ちなみにヒトの名誉のために付け加えておくと、ヒトは類人猿の中でも特に持久力に優れていると言われている。それは、持久力を発揮する際に使う「赤筋」の割合が高いことと、汗腺が発達しており、また体毛が少ないおかげで長い時間活動して体温が上がっても、効率的に下げることができるためらしい。

だから、時速50キロでヒヒに追いかけられた時は、何とか長距離レースに持ち込めれば、勝てる可能性があるかもしれない。というか、追いかけられるようなことをしないのが一番だけれども。

■甘いもの好きで、花粉症持ち


ここまではヒトとサルとの違いにフォーカスしてきたけれどもで似ているところもある。例えば、両者ともに甘いもの(サルは果実)を好む。サルは基本的に高カロリー、高たんぱくな食品を好む(このあたりも、ヒトと似ていると言えなくもない)。彼らは味や匂い、色や触感など、五感をフル活用して、毒を避けて栄養価の高い食品を摂っているらしい。

そういう意味では、賞味期限を3日過ぎたヨーグルトを取り出してきて、匂い、色、味をチェックしてゴーを出した今朝の私と、それほど違いはない。

また、花粉症になることもわかっている。花粉症とは、ある花粉に反応するIgE抗体を持っていることで発症するもの(らしい)が、1987年の調査で、19%ほどのサルがスギ花粉に特異的(つまり花粉症を発症する)IgE抗体を保有していることがわかった。ちなみに、スギだけでなく牧草やブタクサ、ヨモギの花粉症を持つサルもいるらしい。

動物園でサル山なんかを見ていると、ボスザルと思しき奴にヘーコラしているサルがいて、なんとなく妙にシンパシーを感じてしまうことがある。こうして改めて調べてみると、サルがさらに身近というか、ホントに近い存在なんだよなあと感じる。サル山のサルたちも。

ではまた。


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